[受験特集]薬学部入試のポイント
医歯薬予備校で化学を約20年担当、松本大地先生が入試のポイントを紹介!
2024年度 薬学部入試のポイント Vol.11
いよいよ入試シーズンも本番を迎えました。今回は本年度の最終回ということで、有機化学の問題を解きながら説明していきたいと思います。最後は大学入学共通テストで出題されたものです。
【1】分子式CnH₂nで示される化合物Aがある。次の実験(a)~(c)を読み、下の各問いに答えよ。
(a) 化合物A 1.00gは2.85gの臭素と完全に反応した。
(b) 化合物Aに塩化水素を付加させると、不斉炭素原子をもつ主生成物と少量の生成物Cが得られた。
(c) 化合物Aをオゾン分解すると、アルデヒドDとアルデヒドEが得られたが、分子量はアルデヒドEのほうが大きかった。
(東邦大 改)
問 1 化合物Aの分子式を記せ。
問 2 化合物A~Eの構造式を記せ。
問 3 化合物Bの分子式で考えられる異性体は立体異性体を含めて何種類あるか。
【2】α‐アミノ酸が直鎖状に多数縮合重合したポリペプチドは一般に分子の一端にはアミノ基を他端にはカルボキシ基をもつ。下の各問いに答えよ。
問 1 ロイシンとフェニルアラニンが1.0×105個ずつ縮合重合したポリペプチドの分子量を求めよ。
問 2 100個のバリン分子が縮合重合したポリペプチド中の窒素の質量パーセントを求めよ。
(解答)
【1】
問 1 一般式CnH₂nはアルケンの他にもシクロアルカン(異性体の関係)がありますが、開環して反応するのは特殊な場合ですので、アルケンに付加反応が行われたと考えられます。
CnH₂n + Br₂ → CnH₂n Br₂
1molのCnH₂n(分子量14n) に1molのBr₂(分子量160)が反応しますから、
答 C₄H₈
問 2 化合物AはC₄H₈のアルケンですから、以下の3つの構造式が考えられます。
① CH₃-CH₂-CH=CH₂
1-ブテン
② CH₃-CH=CH-CH₃
2-ブテン
③ CH₂=C(CH₃)₂
2-メチルプロペン
① に塩化水素が付加すると、
CH₃-CH₂-C*HCl-CH₃
2-クロロブタン
CH₃-CH₂-CH₂-CH₂Cl
1-クロロブタン
② に塩化水素が付加すると、
CH₃-CH₂-C*HCl-CH₃
2-クロロブタン
③ に塩化水素が付加すると、
付加反応の結果、不斉炭素原子をもつ生成物は、2-クロロブタンであり、このとき、同時に少量の生成物も得られることから、Aは1-ブテン、Bは2-クロロブタン、Cは1-クロロブタンとなります。
(マルコフニコフ則)
一般にR-CH=CH₂へH-Xが付加する場合、H原子の数が多いC原子にH原子が付加しやすく、XはH原子の数が少ないC原子に付加します。
R-CHX-CH₃ (多) R-CH₂-CH₂-X (少)
R-CHX-CH₃(多)
R-CH₂-CH₂-X(少)
(c)より、1-ブテンをオゾン分解すると、プロピオンアルデヒドとホルムアルデヒドが生成し ます。
分子量はアルデヒドEの方が大きいので、Eがプロピオンアルデヒド、Dがホルムアルデヒド となります。
したがって、答は次のようになります。
問 3 化合物Bの分子式はC₄H₉Clですから、次のような異性体が考えられます。
2-クロロブタンは不斉炭素原子をもちますから、光学異性体が存在します。したがって、異性体の数は5種類になります。
答 5種類
【2】
問 1
分子量はロイシン131、フェニルアラニン165です。ポリペプチドはアミノ酸1分子から水1分子が脱離して縮合重合した構造ですから、その分子式は
(131+165-18×2)×1.0×105=2.60×107
*問の中の1.0より有効数字は2桁で答えます。
答 2.6×107
この種の問題(高分子の縮合重合)はポリペプチドの両末端では、水分子の脱離が行われていません から、厳密には計算された分子量に18加えておく必要があります。しかし、この問題の場合、与えられている条件から、解答は有効数字2桁でよく、上記のように計算しても問題ありません。
必須アミノ酸・・・バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、リシン、メチオニン、トリプトファン、トレオニン
必須アミノ酸の名前やグリシン、アラニン、チロシン(ベンゼン環を含む)、システイン(硫黄を含む)、リシン(塩基性アミノ酸)、グルタミン酸(酸性アミノ酸)の構造式は覚えておいた方が良いでし ょう。それらの分子量が与えられていない問題もありますから。
問 2
バリンの分子量は117です。バリン1分子から水1分子が脱離しているので、窒素の含有量は
答 14.1%
*問の中の100より有効数字は3桁で答えます。
大学入学共通テスト(化学)
第5問
(解答)
第5問
a
グルコース中の炭素原子は6個なので、炭素数1の有機化合物が生成するとありますから、6個の有機物が生成したと考えた人もいたと思いますが、YとZ以外は生成しないとありますので、6個の有機物は2種類に分類されるということですね。生成した有機物はアンモニア性硝酸銀水溶液を還元とありますから、これは、アルデヒド基を持つと考えられます。また、Yは還元剤としてはたらく(酸化される)と、Zになることから、Yはホルムアルデヒド、Zはギ酸となります。
答 ④
ちなみに、ギ酸はカルボン酸ですが、アルデヒド基を持ちますから、還元性のある唯一のカルボン酸であり、この性質は試験にも頻出です。
b
1 molのグルコース中には6molの炭素原子が存在しますから、6molのYとZが生成します。設問には合計で12 molのYとZが生成したとありますから、グルコースは2molになります。
答 ①
最後になりますが、このコーナーをご覧頂いた皆さんのご検討をお祈りいたします!